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 伊左衛門(いざぃんさ)の竹内ヨシエさんは大正9年生まれ。昔から絵を描く事が大好きだった。
 幼い頃は父の勤務先であった富山市で過ごした。太平洋戦争の戦火が激しくなると共に、朝日町に戻ったヨシエさんは、戦時下の重苦しい雰囲気からは一転、故郷の美しさに驚いたという。海・山・川、殊に暗く短いトンネルを抜けた瞬間、目の前に広がる豊かな自然に恵まれた桃源郷。
 日々畑仕事に精を出す中、自らを包み込んでくれるこの絶景を「いつかはキャンバスに残したい。」そう想いを膨らませていたが、なかなか形に出来ずに時が過ぎていった。
 60歳を過ぎた頃、偶然【墨絵教室生徒募集】の文字が目に留まる。「絵を描きたい。」募る想いが行動に移る瞬間だった。
 最初の5年間は、町の日本画家長崎助之丞氏について墨絵を習った。多くは語らない先生だったが、描く姿を見ながら一生懸命その画法を学んだ。春夏秋冬、ふるさと笹川の風景を何度も描き、少しずつ自分のものにしていった。

 墨絵を描き始めて5年、水彩や油彩にも興味が湧いてきた。鮮やかな色彩で四季を表現することは、墨絵とはまた違い、面白くもあり、難しくもあり。現在も師と慕う湯口敏明氏のもと、その魅力にどんどん引き込まれていった。

 心躍る風景があれば、一輪車に画材道具を乗せ、一人山中へ向かう程の熱の入り様であった。
 一心に描き続けて30年。5月5日で91歳になる。風景・静物・人物・花…膨大な数の作品が出来上がった。
これこそ、ヨシエばあちゃんの「絵仕事」そのものである。

 墨絵からは、一本筋の通ったヨシエさんの芯の太さが感じられる。

 水彩からは、柔和な色彩が織りなす独特の空気感が感じられる。
 油彩からは、作品へ命を吹き込もうとする意志の強さが感じられる。

 描かれた山景からは、晴嵐が立ち上り、笹川の清流からはマイナスイオンが滲み出るかのように、飾られた空間には「癒しの風」が静かに流れる。

 趣味に年齢は関係ない。新しく湧き上がる興味が尽きることもない。描きたい風景、行ってみたい場所はまだまだたくさんあるという。この先何を吸収して、どんな絵描きになるのか。今後ますます楽しみだ。